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木構造を暮らしに活かす「真壁」のすすめ~和のしつらえを今実現する方法

2020.1.24

「和のしつらえ」と聞いて、どのようなイメージを思い浮かべるでしょう。畳や障子、襖といった建材から、床の間や欄間などの空間仕様まで、私たちの住文化は日本特有の自然環境と調和しながら住まう知恵と工夫にあふれています。
自然素材や伝統建築・意匠を用いた住宅に定評のある建築家・安井正さんから、「真壁」を切り口に、今一度見直したい「和のしつらえ」を現代にアレンジするポイントを事例と共に解説します。

和のしつらえ

事例1
新築事例。手前のリビングから40センチほどの小上がりで畳敷の部屋を設けた。真壁造りのため柱が見えているのが分かる。市松模様の襖は手漉きの彩色和紙で、施主と設計者が一緒にメーカーショールームで選んだもの。天井はダウンライトを避けた廻り縁がユニークなリズムを生んでいる。雪見障子から明るい光が漏れる。

新築住宅の約6割が木造でつくられているこの日本で暮らしていながら、私たちは普段、木の空間に居ることを実感しているでしょうか。多くの日本人にとって、RC造のマンションの部屋も木造住宅も、アルミサッシの開口部とビニールクロスの壁天井で囲まれた空間に居る限り、ほとんど違いを意識することはないでしょう。

私は、木の家に暮らすこと、しかも「和のしつらえ」を実感できる空間に暮らすことは、このアジアの東端の島国で、自然と調和しながら暮らすことの恩恵を与かるための、一つの有効な方法だと考えています。

「和のしつらえ」とは何でしょうか。和風を感じさせてくれるアイテム、例えば畳や障子でインテリアを飾ることでしょうか。 それとも、京都の慈照寺(銀閣寺)の東求堂に起源があるといわれている床の間や長押のある空間、それを書院造といいますが、そのことでしょうか。それらも一つの答えだとは思いますが、本コラムでは「真壁」で住空間をつくることに注目して、そこから「和のしつらえ」の現代的な可能性についてお話します。

真壁と大壁の違い

事例2
新築事例。通常見られる水平方向の梁を排し、斜めの登り梁がモダンな印象を与える。梁や柱は同色の塗装で統一感を演出。壁は白のクロス貼り。なお、外周壁のみ断熱のため大壁造りとなっている。

真壁と大壁の違いは、簡単に言うと「柱を見せるか見せないか」です。伝統的な和室では、床の間があって、床柱や落とし掛けがあって、人の頭の上あたりにある長押が部屋をぐるりと取り巻いています。それがいわゆる和室のスタイルなので、柱と柱の間には障子や襖といった建具を建て込むか、聚楽や漆喰など左官仕上げで壁を作ります。だから垂直の要素として柱が見えています。

それに対して大壁は、柱面の上にボードや板をはって壁を作るので柱が見えません。窓やドアは2、3センチ幅の木枠を回してプレーンな壁に穴が開いたように見えます。一般的にいって、大壁でつくると洋風やモダンに見えて、真壁でつくると和風に見えると言われています。私たち多くの日本人の感性は、真壁の空間に入ったときに和風を感じるように習慣化されているのでしょう。

真壁のメリット

事例3
京町屋のリノベーション事例。かつて土間として使われ、かまどの煙を抜くための吹き抜け空間を廊下として生まれ変わらせた。トイレ・洗面を集めた区画の壁面は左官仕上げで、角丸の仕上げと独特のツヤが繭を連想させる。トップライトからの光が空間全体の陰影を生んでいる。

真壁のメリットは、まず第一に耐久性の向上にあります。私は京都を拠点に仕事をしているので京町家のリノベーションをすることも多く、築100年近い木造建築の改修も手掛けます。そこでの経験から確信するのは、木構造をダメにする最大の要因は湿気だということです。

湿気で湿った状態が恒常的に続くと、木は腐ってしまいます。腐朽菌の活動が活発になって木の組織が脆くなるのです。また雨漏りなどで濡れた状態がつづくとシロアリの食害にあいます。仕上げ材を撤去して古い柱や梁、土台を観察すると、雨漏りや浴室周りの湿ったところばかりを食べ、乾いたところはほとんど食べないことが分かります。この差は歴然としていて、シロアリは建物すべてを食い尽くすということはしません。乾いたところは食べたくないのか、どこかほかの建物に移っていく。それがシロアリの生態なのです。

真壁づくりの場合、雨水が侵入してもすぐに乾きます。そしてどこが雨漏りしているのかすぐにわかります。だから対処もすぐできるのです。ちょっと雨漏りしてもすぐ直して、乾かせばよい。単純なことですが、木造建物の耐久性を高めるには真壁はたいへん有効なのです。

真壁のデメリットとその対応方法

事例4
昭和の在来工法建築をリノベーションした事例。壁面撤去して出現した下地の土壁を活かした空間が特徴的。白で塗装した柱や梁/天井、モルタルの床とも相まったヴィンテージのテクスチャーが、施主の家具と上手く調和している。庭園の向こうは京町屋と隣接しており、元々ある景色も素材も活かした好例。

真壁のデメリットとしては施工性の問題から、手間がかかりコスト高になる傾向が挙げられます。
真壁は柱面に直接人が触れるので、材の表面を削って仕上げる必要があります。しかし、必ずしも超仕上げのような、つるりとした表面に仕上げなければならないことはないでしょう。リノベーションなどで荒仕上げの柱が露出する場合、少々ペーパー掛けをする程度のラフな仕上げでも、それが建て主に好まれるのはよくあることです。建て主の嗜好を是非見極めましょう。

真壁で耐力壁をつくろうとすると、柱幅より間柱の幅を狭くして壁を薄くする必要がありますが、その狭い壁下地の幅の中でアンカーボルトや筋交いを納めなければなりません。その場合、金物の種類を吟味したり、筋交いを止めて構造用合板で耐力を確保したりすれば十分可能です。
床との取り合いや電気配線の通し方にも工夫や丁寧な施工が必要です。その分、逃げの少ないことを意識して丁寧な手仕事をすることで、大壁にはない施工精度の良い仕事を実現できるでしょう。

防火の面ではどうでしょうか。室内での火災については燃え代設計という手法があり、柱の表面が火災時に炭化して、その残った芯の部分だけも建物が倒壊しないだけの必要な強度を持たせるという考え方で構造計算をします。この方法によって、木造三階建で要求される45分準耐火構造を真壁でつくることも可能となります。
隣家からの延焼防止の面では外壁面を真壁にするのは難しいですが、室内側を真壁にすることは可能です。都市部の多くの敷地で木造住宅を建てる場合、建築基準法でいう防火構造を確保する必要がでてきます。その場合は外部側モルタル厚20ミリ以上、室内側石膏ボード9ミリ以上の組み合わせで告示1359号の仕様規定を満たす方法や、防火構造の認定番号を取得している材料と仕様を採用することで対応できます。

和のしつらえの空間で暮らせる豊かさを

真壁造りにかぎらず、和のしつらえの空間は、木や紙や土といった自然素材によって空間がつくられます。そこには鉄やコンクリートやガラスにはない暖かさ、柔らかさ、親しみやすさがあります。
大量生産・消費社会が生み出す、資源の枯渇や気候温暖化、グローバルな格差社会がもたらす矛盾や限界を思う時、自分が暮らす空間が、どこかで地球環境の悪化や、どこかの国の誰かの犠牲や苦しみに関与しているかもしれない気持ち悪さ。そんなことが無視できない時代に生きている私たちにとって、和のしつらえを通じて現代の住環境を見直すことは、単なる趣味の問題ではなく、もうすこし切実な意味を持ち始めているのではないでしょうか。

テキスト=安井 正(クラフトサイエンス一級建築士事務所)
監修=リビングデザインセンターOZONE

製品のご案内

モダンに昇華された現代の襖紙の提案

ルノン株式会社 襖紙「ルノン 凛」
ルノン株式会社 襖紙「ルノン 凛」
メーカー名
ルノン株式会社
URL
https://ssl.runon.co.jp
製品名
襖紙「ルノン 凛」
品名・品番
寂(さび)No.324~328
素材
・仕上げ:新鳥の子襖紙
・素材:紙(再生パルプ85%使用
サイズ
W900×H1800mm 基本的間中サイズ
価格(税抜)
参考価格:940円/m
※施工費別
※襖本体の価格は含まれません。襖紙の参考価格です。

襖紙「ルノン 凜」は、住空間における日本人の美意識を現代の“和” に置き換え、スタイリッシュに表現しました。
モダンに昇華された意匠。インテリアに調和する配色。伝統が培った優れたインテリアエレメントである襖。風土環境が育んだ紙の室礼(設い)を、今のかたちとして提案します。吟味された良質なデザインを、多くの人にご使用いただけるよう手ごろな価格で構成された新鳥の子襖紙です。畳間だけではなく板間(洋間)フローリングとの相性も考慮。二つの「間」を仕切り、構成する上で、全体の調和をなす配色設計を行いました。
新作「寂(さび)」は、日本の伝統美「侘び・寂び」茶道にも通ずる自然のあるがままの姿。自然に朽ちてゆくもののあわれこそ美しい。豪華絢爛の対極にあるこの日本の伝統美を印刷で再現いたしました。金属の持つ輝かしさと朽ちてゆくはかなさの融合美です。ほのかな光にこそ美しく輝く、「陰影礼賛」にも通ずる「凜」とした設え、「凜」とした空気感。今の和室の設えのご提案です。

和モダンな高級感を演出する西陣織素材

株式会社加地織物 オイルスマッシャー搭載レンジフード
株式会社加地織物 オイルスマッシャー搭載レンジフード
メーカー名
株式会社加地織物
URL
https://kyo-go.com
製品名
西陣織KYOGOインテリアファブリック
品名・品番
Miwaku, IBUKI, COIKI, YUI (シリーズ名)
色・デザイン
カタログから選択、色変更や完全オーダーメイドも可能
素材
ポリエステル、金糸、銀糸(絹も可)
サイズ
生地巾1440mm程
価格(税抜)
15,000~100,000円/m
※生地での価格

1200年以上前の平安時代より技術が受け継がれてきた西陣織、そんな伝統工芸である西陣織を現代のモダンな空間に上品な優雅さを添えるインテリアファブリックとして提供しています。
KYOGOの西陣織は従来の和の空間だけでなく洋の空間や和モダンな空間にも合うようにデザインを一から考えて製作します。金糸、銀糸を緻密な計算で繊細に織り込んだ織物は立体的に見え、かつ上品に光輝くので、和室はもちろん、マンション内の部屋やホテル・レストランなどの商業空間にも高級感を演出するインテリア素材として最適です。
使用方法も不燃壁紙や襖紙、ファブリックパネル、クッション、カーテン、ソファ、ベッドスローなど様々なインテリア製品に利用いただいております。

「和」のある暮らし - 和素材の進化とバリエーション -

和紙や畳、左官材、木製品、塗料などを取り上げ、伝統的なものと現代風にアレンジしたもの、それぞれの特徴や暮らしへの取り入れ方、新しい使い方などを展示中です。リビングデザインセンターOZONE 7F CLUB OZONEスクエアにて、2020年3月31日(火)まで。10:30~18:30(1月31日まで~19:00)、水曜休館、2月16日(日)臨時休館。

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