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家事楽・時短の先の住まいのヒント〜生活者からみるマーケティング〜 第2回 ニーズ視点によるマーケティング

第1回に続き第2回は、生活者のニーズからマーケティングのヒントを読みとるポイントをご紹介します。

1現状からどんな理想的な住まいと暮らしを提案するか

●データ活用の最初のミッションは現状を把握すること

家 イメージデータ分析の一つ目のミッションは、今こうなっているということを確認する現状把握です。例えば IoTではセンサーが発達して色々なものを測定できたことでエアコンを何時何分にONにしたなどの情報がコンピューターに送られ、家をモニタリングすることで家の温度管理ができるようになってきています。家事楽・時短にしろ、温度管理にしろ、現状把握であってそれ自体には面白味がなくても構いません。現状からどういった理想的な住まいと暮らしを未来に提案するか、そのアイデアについて考えていくのが大切です。

●マーケティング提案のカギは「ニーズの創造」

一般的にマーケティングが誤解されるのは、「ニーズ対応」と思われることです。お客さまが感じていてこうやってほしい、ということを体現してやればいいじゃないか、と思われるかもしれませんが、特に住まい系のものは、残されているニーズ、誰も気づいていないニーズなんてものはほとんどありません。いかに「言われてみればそうなんだ」と気づくようなニーズを創造して提案できるかが大切です。そこを絡めて4つの視点から家事楽・時短の先の住まいを考えるポイントをご紹介します。

2ポイント① 手段と目的の視点から生活者を読み解く

●手段と目的を構成する3階層のニーズ

[図①] 消費者ニーズの深層構造まず手段と目的の関係を、ぜひ理解してください。これは私がマーケティングの戦略・戦術を考える時には必ず意識するところですが、消費者は商品を買っているのではなく、ベネフィットを買っています。ある有名な本では「ドリルを売るなら、穴を売れ」というフレーズがありますが、要するにドリルというモノを買うのではなく、穴を開けたいということです。また、周りを氷に囲まれて暮らしているエスキモーでも、用途によって氷が必要なことに気づけば氷を買うという例もその例の一つです。
この手段と目的の関係には階層があると言われており、梅澤伸嘉先生が「消費者ニーズの深層構造」という考え方を提唱しています(図①)。この考え方を簡単に説明すると、ある種のサービス、例えば「乾太くん」というガス衣類乾燥機を買いたいな、というのはそれを所有したいニーズで「HAVE needs」と言います。乾太くんを買いたいのは、乾太くんを飾るためではありません。乾太くんを使うことで何かを実現できるからです。そうすると「乾太くんを買うのはなぜですか?」と聞いた時に、例えば「カラッと乾燥できるから」という具体的ニーズ「DO needs」があります。さらに、「なぜ、カラッと乾燥させたいのか?」というと、「快適な人生を送りたいから」という上位ニーズ「BE needs」があります。この階層を理解するのが基本です。

●そのニーズは誰のニーズか

[図 家事楽・時短] HAVE needs,DO needs,BE needs のピラミッドでは乾太くんを買ってカラッと乾燥したいのは誰でしょう?例えば主婦など洗濯物を乾かす人のニーズだけでそれを買うかといったら、そんなことはありません。特に住宅設備は自分の満足だけでは購入をためらってしまうのですが、自分の手間が省けるだけではなく、その結果、家族との時間が増えるなど、他の家族にとっても良い点があると選びやすいものです。買う人と使う人が異なれば、提供すべきベネフィットもそれぞれについて考えなければなりません。「家事楽・時短」についても、家事をやっている人だけではなく、家族全体に関わるものです。

●手段と目的を対応させてアイデア出しをする

例えば「なぜ床暖房を買うのですか?」と聞いた時に「暖を取るためです」という答えだけではダメで、「家族の団らん」をしたい人は床暖房にするでしょうし、なるべく家族と離れて自分一人で温度管理をしたい、という人はパーソナル空調にするでしょう。そのように手段と目的を対応させながらアイデアを考えていくということが重要です。
テーマである「家事楽・時短」の先を考えるとしたら、ピラミッドの「DO needs(具体的ニーズ)」が「家事楽・時短」になります。
「家事楽・時短」をする時に二つの問い掛けがあります。その一つは“「家事楽・時短」はどう実現していくのか?”。例えば洗濯物をたたむのが手間だ、と思っている人はどういう機器を期待するかなどです。もう一つの問いは“「家事楽・時短」が得られたら何が実現するのか?”。より上位のベネフィットは何なのかといったアイデア出しをすると、見えることが多いと思います。それがある商品やニーズを起点に、他の手段(商品)の可能性を考える方法です。

3ポイント② 問題に気がつくと解かずにはいられなくなる!?

●日常生活には問題がいっぱい

お風呂イメージ消費者がこういうものにニーズを感じるだろう、欲しくなるだろうとわかったとしても、マーケティング的には顧客の背中を押してあげないと買ってもらえません。そこで問題解決とか、課題解決というのが流行りましたが、人間というものは問題に気がつくと解かずにはいられなくなる性質があります。有名な例をご紹介すると、風呂釜洗いのCMで「お風呂のお湯は、本当は汚いんですよ」と言われると「え!」と思うわけです。実は日常生活に問題はいっぱい存在しているけれど、多くの場合気づいていないだけで、それを問題だと教えてやると解きたくなるのです。しかし人間の記憶はそんなに長続きしないので、解きたいと思ってもすぐに提案してもらわないと忘れてしまいますが、その時に「どうですか?」と提案されると買いたくなるわけです。

●さらに「家事楽・時短」を提案するなら

「家事楽・時短」にからめて言うと、家事に関することは問題があってもスルーしているものが非常に多い。今は生活するにあたってそんなに面倒なことはないですし、すでに多くの人たちは「家事楽・時短」を実践していますから、そういった人たちにさらに「家事楽・時短」を提案するなら、「それではまだ楽ではないでしょう」というストーリーを作るのです。

4ポイント③ 効果は実感できないと喜べない!?

●効果を「見える化」して口コミにつなげる

D社のサイクロン式掃除機人間は問題を解く方法が具体的に示されると、その商品を買いたくなります。商品がさらに売れるにはネット社会においては口コミの力を借りたいところですが、それには使う人を満足させなくては、口コミは期待できません。口コミにつなげるには、効果を「見える化」して実感させる必要があります。その意味で「家事楽・時短」は効果が見えにくいと思われます。そこに関連する昔の例から違う角度で解釈してみましょう。
例えばD社のサイクロン式掃除機はなぜ売れているのでしょうか?今でこそサイクロン式の掃除機は他にも出ていますが、D社は「吸引力の変わらない、ただ一つの掃除機」という訴求点を打ち出しています。より重要なのはカバーが透明というところがポイントです。リアルタイムでゴミが溜まっていくのが見えると非常に取れた感じを持ちます。効果というのは実感すると自分が満足し、特にネット社会では口コミしたくなるのです。
では、「家事楽・時短」で効果を実感できていないものを起点に、手段と目的の視点からヒントが見えないでしょうか。その時に平均像ではダメです。みんなが感じているものではなく、専業主婦の夫とか共働きの夫など、セグメントを切ってやるとより見えてきます。データ分析をしている人はどうしても平均値で見たがりますが、そうではありません。

5ポイント④ 「したいニーズ」と「しなきゃニーズ」の視点で考える

●「しなきゃニーズ」に着目する

[図 掃除] HAVE needs,DO needs,BE needs のピラミッドニーズには二つあります。多くの人は「したいニーズ」ばかりに目が行っていますが、もう一つ「しなきゃニーズ」というものがあります。家事は「しなきゃ」に近いもの。「しなきゃニーズ」はネガディブなニーズで、「したいニーズ」はポジティブなニーズです。「したいニーズ」にだけフォーカスしていてはダメで、「しなきゃニーズ」のほうにもフォーカスをしようということです。
フォーカスした時に「しなきゃ」をそのまま実現してもあまり喜べませんから、どうせやるなら「しなきゃニーズ」を「したいニーズ」に変えていくことを考えます。

●「しなきゃニーズ」を「したいニーズ」に変える

効果が見えると「したく」なります。実際、私の周りにも何人か吸引力の落ちないと言われている掃除機にはまってしまった人がいて、毎日掃除機をかけるようになってしまったのです。それは効果が見えるから「しなきゃ」では無く「したくなって」しまったのです。結論は「したいニーズ」に転換できるものを考えるということ。先ほどのポイント①に絡めて言うと、プレイヤーは自分だけではなく、住まいの場合、通常家族がいますので、他の人に気づいてもらえるような仕組みも必要です。

●自分だけでなく家族や+αのメリットを訴求

インスタンドコーヒー イメージコーヒー飲料メーカーN社の例を挙げる と、インスタントコーヒーが初めて登場した時に、試飲テストのアンケートをとったところ、主婦が買ってみたいと言う結果になったにもかかわらず、全然売れませんでした。なぜかと言うと、ちゃんとコーヒー豆を挽いて淹れるものだと言う中で、家族に手を抜いていると思われたくなかったからです。そこでN社はネガティブではなく、「朝、時間をかけて豆を挽いてコーヒーを淹れるのだったら、その分食卓に座って子どもと一緒にご飯を食べる時間を作るのが賢い主婦なんですよ」というアピールをして売ることに成功したのです。
同様に食器洗い乾燥機もひと昔前は食器なんて手で洗えばいいじゃないかと言われていたものを、「コストが削減できる」「除菌もできる」「汚れもよく落ちる」とプラスαの効果の見える化を図ったことで売れました。
このように「手段と目的の対応を考える」「人は問題に気づくと解きたくなるから何とか問題に気づかせる工夫を考える」「効果は実感できないと喜べない」「しなきゃを、したいに変える」の4つをポイントに、データから出てきた現状把握から、その先の住まいのヒントがあるのではないかと思います。

◆まとめ◆

○手段と目的の関係には3つの階層「HAVE needs(手段)」「DO needs」「BE needs(目的)」があり、手段と目的を対応させながらアイデアを考えると良い。

○人間は問題に気づかせると解かずにはいられなくなり、問題を解決する方法が具体的に示されるとその商品を買いたくなる。

○効果を「見える化」して実感させると口コミが期待できる。

○ネガティブな「しなきゃニーズ」をポジティブな「したいニーズ」に変えていく。効果は見えると「したく」なる。

法政大学 経営大学院 教授 豊田 裕貴氏
法政大学 経営大学院
教授 豊田 裕貴氏

法政大学大学院にて経営学修士号(MBA)、同大学院経営学博士号(DBM)を取得。リサーチ会社、シンクタンクの研究員、多摩大学教授などを経て、2015年4月より法政大学イノベーションマネジメント研究科・教授。主な著書に、『ブランドポジショニングの理論と実践』(講談社)、『知識ゼロからのビジネス統計学入門』、『知識ゼロからの売れる消費者心理学(共著)』(幻冬舎)などがある。

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