健康で楽しむお風呂ライフのために
本来楽しいはずの入浴ですが、「ヒートショック」で命を落とす人が年間17,000人(*1)と推計されていることをご存知でしょうか。交通事故の死者が4,000人(*2)を切る今日では実にその4倍以上であることは驚きです。ヒートショックとは、暖かいリビングなどから室温の低い脱衣室・浴室やトイレなど、部屋間の温度差で血圧の変動が大きい場合に、脳卒中や脳血栓・心筋梗塞などが引き起こされることです。
ヒートショックを防ぐ為には、部屋間の温度差を無くすことが必要です。現在お住まいの家でしたら入浴前に脱衣室・浴室を暖めておくことが有効です。新築や改修の場合は、家全体の断熱を強化して熱の逃げを防止し、部屋間の温度差を少なくすることが出来ます。同時に冷暖房など家全体の省エネにもつながり、普段の生活でも体感温度(*3)が上がって快適に毎日を過ごすことが出来るようになります。
(*1)2011年東京都健康長寿医療センター研究所による
(*2)2018年の交通事故死者数は3,532人
(*3)体感温度=(室温+床・壁・天井の温度)÷2で示される
浴室からの省エネルギーの工夫
家のエネルギー使用量(*4)を見ますと、「給湯」に約3割のエネルギーを使っています。この割合は欧米と比較すると大きく、お風呂好きの日本人を表す数字です。この給湯エネルギー節約は他のエネルギー削減より取り組みやすいと言われていますので、設備や生活の工夫でぜひ実践して行きたい所です。
お湯を作る給湯設備には、「瞬間式」と「貯湯式」の給湯器が有ります。瞬間式給湯器では、ガスや灯油からお湯を作る効率を従来製品より15%程度上げた「潜熱回収型給湯器(エコジョーズ)」を使用しましょう。貯湯式給湯器では、従来深夜電力を利用した電気給湯器がマンションなどで多く普及していましたが効率が悪く、また深夜電力の割引も小さくなっている中、取り替える場合は「ヒートポンプ式給湯器(エコキュート)」が挙げられます。また、発電しながらお湯を作ることができる「コージェネレーションシステム(エネファームなど)」もエネルギー使用量を少なくする上で有効です。
無限に降り注ぐ太陽熱を利用することも省エネに大変有効です。畳2帖程度の集熱パネルを屋根に設置するだけで、太陽光発電より多くの家庭で設置が可能です。単に水を暖めてお風呂に給湯するタイプから、台所や洗面所の給湯+床暖房など広い使い方をするシステムなど多くの製品が出ていますので、ぜひ利用したいものです。
家族で入浴する場合、なるべく間を空けず入浴することと、浴槽を断熱してお湯を冷まさないことが省エネに有効です。また、手元留めシャワーや水優先式水栓などは節水効果もあり水道代の節約にもなりますのでお勧めです。
(*4)エネルギー白書2018より 2016年の一般家庭のエネルギー消費割合では給湯は28.3%
お風呂を楽しむためのデザインと設備
省エネの設備を整えた後は、浴室自体も快適に楽しむ場としてデザインすることも検討しましょう。音楽や映像を楽しむ機器を設置したり、浴室の照明にコントローラーを付けて照度を落としたり、ゆったりした気分になる仕掛けも良いでしょう。ミストサウナやジェットバスなど手軽に設置できる設備では、ご家庭でも温泉に行ったような気分になります。
デザイン的には浴室に面して中庭を作り入浴しながら庭を見たりして、ちょっとした露天風呂感覚で利用するのも良いでしょう。浴室より直接出られる外部デッキなどを設けると夏など入浴後のホテリをさましながらビールなど楽しめます(事例1「上原の家」)。もちろん、外部より見えない工夫は必要ですね。トップライトなどで広さを演出し、日中青空を見ながら入浴する事などは週末の楽しみとなること請け合いです(事例2「善福寺の家」)。浴室の広さを確保するのが難しい場合は、洗面所・脱衣室と浴室の間仕切りをガラスにすることにより、双方ゆったりした感覚を得る水回りとする事が可能です(事例3「蔵前の家」)。
省エネしてお財布に優しい浴室で、健康で快適な入浴を楽しみましょう。
テキスト=大川 直治(大川建築都市設計研究所)
監修=リビングデザインセンターOZONE