住宅&住宅設備トレンドウォッチ

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制度マーケット情報 インフレ圧力は続く、住宅価格はまだ上がる!

INDEX 2021.12.17

コロナ感染拡大が落ち着いて経済活動が少し戻ってきたと思えば、また新たな変異株の登場で、相変わらず先行きは見通せない状況です。また住宅市場は、今年度上半期は比較的堅調な動向を示してきましたが、やはりローン減税の延長措置の期限を迎えた10月以降は少し受注動向にも変調の兆しも見られます。
そして足元での住宅市場での懸念材料と言えば、住宅部資材の高騰が続いていることでしょう。今年3~4月頃からウッドショックが問題として挙がってきましたが、今はウッドショックのみならず、全ての部資材が上がっているという、まさにインフレ状態になっています。今後、住宅価格の見直し、消費者の購買力、原価上昇分のコストをどう抑えていくかなど、経営的に難しい舵取りが必要になっていくと思われます。

1ウッドショック以外にも住宅の部資材価格が軒並み上昇

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原油価格が7年ぶりの水準に上昇するなど、世界的なインフレ懸念ということが、盛んに言われるようになっています。2020年のコロナ禍以降、モノの生産を強制的に止めたり、減産したり、また逆に新しいニーズが急激に増加したりということが繰り返され、世界中で需給バランスが崩れて、あらゆるモノの価格に影響を与えているという状況下にあります。一方で、日本はというと、長いデフレを経て、企業が価格転嫁をすることを恐れ、「安いニッポン」と言われるくらいに、世界の中でもモノが安い国になっています。

そんな日本でも世界的なインフレ状況下で、あらゆるモノの価格上昇の動きが見られ始めています。食料品は変動が激しいものですが、製造品の原料となる各種コモディティ価格、産業の米と言われる半導体価格など、製造業には欠かせないものが、供給不足になり、価格を上昇させています。
原油や石炭、天然ガスの価格が上がることで、エネルギー価格が上がり、コンテナ等の輸送運賃も上昇、物流価格にも影響を与えています。世界中の全ての産業において、物流コストアップは影響してきますし、加えて今は円安の圧力も強くなってきているため、海外からの輸入品価格は下がる見通しが立ちません。
住宅は非常に多くの部資材の集合体です。今はその住宅を作る上で欠かせない部資材が軒並み上昇している状態と言って良いでしょう。つまりウッドショックは原価上昇の序章ということで、後を追うように、他の部資材の原価が上がり始めています。

例えば、石膏ボード大手の吉野石膏は10月に30%程度の価格アップに踏み切りました。また建築用ガラスも10~40%程度の値上げ、ウッドショックの余波からフローリング等の建具に至るまで、値上げに踏み切っています。電気自動車にも使われるアルミや銅の価格も今年に入ってから上昇を続けています。サッシの価格などにも影響が出て来ることは必至です。また中国で多く生産されている太陽光パネルも値上がりしていて、ここでもアルミやガラスが使われていますし、中国では電力不足問題もあって価格が更に引き上げられています。
木材や鉄という構造材から、住宅の至るところまで値上げの波がいくども押し寄せてきているというのが今の状況と言えます。つまり住宅価格自体は、上げて行かないと利益が全く出なくなってしまうわけです。

2住宅会社は坪単価アップで対応するが、原価上昇は止まらず

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ウッドショックを受けて住宅販売価格を上げたところも多かったと思われますが、更に上げる必要があるのかもしれません。例え木材上昇が止まっても、他の資材上昇圧力も強く、再び住宅価格の見直しにも迫られると思われます。
そしてもう一つ、足元で度々問題になるのは、トイレや給湯器の納品遅延です。コロナ禍で最初に足りないと騒がれたのがトイレや食洗機でした。コロナで中国の工場が止まったことで、日本の設備メーカー各社の生産に影響を与え、納品出来ない状況が1~2ヶ月程度続きました。比較的早くに収束はしましたが、今年9月頃からは、ベトナムのロックダウンにより、再び設備生産が滞り始めました。今回もトイレ、給湯器等の生産に影響が出て、今なお収束してはいません。特に給湯器等が深刻のようで、壊れてもリフォームしたくても在庫がなくて対応できないという状態が続いていると言います。部品としては、半導体不足によって生産できない状況から、最近では給湯器に使うハーネスが足りなくなっているという話も聞きます。本当にあらゆる部資材が足りなくてモノが作れないという状況が多発しているということでしょう。
コロナはまだ収束していません。今後いつ何時、何が急になくなるかはわかりません。今はそういう世の中で、部材調達価格が急に上がったりする可能性もあります。よって出来る範囲で、在庫ストックを持っておくことも必要かもしれません。在庫を抱えるのにもコストは掛かってくるはずで、いずれにしても住宅価格上昇につながっていく話ばかりです。

住宅地の地価も上がり始めていると考えて良いでしょう。コロナショックで一時的に地価が急落したりもしましたが、住宅地はそれほど下がったわけではなく、むしろ人気の住宅地に関しては上昇しています。分譲大手企業の発表でも、用地仕入れ価格に関しては各地で上昇しているということですから、建物の原価と土地と全てが上がっている「住宅インフレ」が起こっていると言って良いかと思います。

3住宅の価格はまだ上げるべきだが、消費者はついて来れるか

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売りにくくなるから、住宅価格が上げられないと言っている場合ではないでしょう。今は住宅価格を上げる時期です。今年の5~6月にウッドショックの影響で、住宅販売価格を見直した会社も多いでしょう。ただそれ以前に受注した受注残分に関しては、価格据え置きですので、それが着工して引き渡されるのが、おそらく来年以降になるでしょう。つまりそこで利益が圧迫されます。例えば飯田グループでは第Ⅳ四半期にウッドショック影響が業績に表れるとしていますし、積水ハウスも下期に、木材と鉄の値上がりにおいて営業利益を70億円も下押しすると見通しています。
各社値上げに踏み切ったものの、今またなお別のところで原価が上がっている状態です。値上げした価格では既に原価上昇分を吸収できない状況になっている可能性があります。何処まで値上げすれば適正な利益が出せるのか。また今こそ適正な価格はどれくらいかを見つめ直す時かもしれません。消費者の多くは一次取得者で、また住宅はそもそも価格が分かりにくいものですから、「適正価格」はどれくらいなのか、しっかりと見極める必要があります。

一方で、建物価格も不動産価格も上がれば、最終的に消費者が支払う住宅購入価格が大きく上がることになります。上がり過ぎては消費者がついてこられないという状況にもなりかねませんので、実際に何処まで価格を上げられるものかは試行錯誤ということになるでしょう。ただ今の購買意欲は高く、ある程度の価格上昇には付いてこられると思います。また新築住宅ならではのメリットは、光熱費がぐっと抑えられることです。ガソリン代、電気代も上がって来ています。月々の光熱費抑制のメリットを訴求することは、住宅購入の大きな後押し材料になるはずです。値上げして購入価格は上がるかもしれませんが、日々のエネルギーコストを抑えられるという経済的メリットに加え、脱炭素やSDGsにも貢献しているということを訴えることも必要でしょう。

(テキスト/株式会社住宅産業研究所 関 博計さん)

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