生体リズムと光の関係
「サーカディアンリズム」という言葉をご存じですか。概日リズムとも言い、生物が体内で刻む約24時間周期の生体リズムを指します。サーカディアンリズムは体内時計によって調整され、私たちの生命活動にとって重要な役割を果たしています。睡眠や覚醒のサイクル、血圧、体温、ホルモン分泌がサーカディアンリズムによって変動していることが、近年の研究で分かってきました。遠藤照明「光育」担当者は次のように話します。
「サーカディアンリズムは厳密には24時間ぴったりではなく、現代人の多くは24時間よりもやや長いと言われています。このズレを修正しないと生活リズムが乱れ、体調に不調をきたす恐れがあります。規則正しいリズムを刻むために重要なのが『日中は明るく、夜は暗い』という自然界の光の変化です。人類史のスケールで考えると、人工照明を使うようになったのはごく最近で、その歴史は短い。人間の身体が人工照明に完全に適応しているとは考えづらく、今も昔も私たちは太陽の光に連動し、サーカディアンリズムを刻んでいると言えるでしょう。どのタイミングでどんな光を浴びるべきか、光が生体に与える影響について、近年、研究や議論が活発に行われています」。
ブルーライトとうまく付き合う
「朝明るくなり、夜は暗くなる」という自然界の一日の光の変化に同調することで、サーカディアンリズムを整える。その際にキーワードとなるのがブルーライトです。
「青い光を指す『ブルーライト』という言葉を聞いたことがあると思います。パソコンやスマートフォンなどもブルーライトを発しており、一般にブルーライトカットの製品が出回っていることで、青い光=悪いもの、という捉え方をされている方もいるかもしれませんが、決してそうではありません。
近年の研究で、私たちの光受容体には、明暗を識別する桿体細胞と色を識別する錐体細胞の2つ以外に、内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)という第三の光受容体が発見されました。この細胞はサーカディアンリズムの司令塔としての役割を担っており、青い光のエネルギーの影響を強く受けることがわかっています。つまり、光受容体の特性を理解し、効果的にサーカディアンリズムを整えるには、本来自然光が存在しない夜間は光の影響力が強いブルーライトを浴びることは避け、反対に、朝は屋内であっても積極的に青白い光を浴びることが重要です。サーカディアンリズムへの理解を深めつつ、シチュエーションに応じた光との付き合い方を考えてみるといいですね」
まずは一般的な照明の光色(色温度)と自然界に存在する光の色を関連付けて考えることが、サーカディアンリズムを整えるはじめの一歩になるでしょう。
調光調色照明を制御して一日の光の変化を表現
では具体的に、サーカディアンリズムを取り入れた照明計画とは、どのようなものでしょうか。
「調光調色のコントロールができる照明器具を導入すれば、プログラムによって朝は朝日が昇るように徐々に色温度を上げて目覚めを促し、日中は5000Kぐらいの白くて明るい光で活動的に、16時以降は色温度を下げていき自然な睡眠へと誘う、といった光の演出が可能です。当社では『Synca』という製品シリーズが対応しています。従来の照明器具の色温度範囲は2700K~6500Kでしたが、『Synca』はろうそくの炎と同じ1800Kから青空光の12000Kまで光色範囲を広げ、より自然界に近い光を再現することで、サーカディアンリズムを考慮した光の制御を実現します。スマートフォンのアプリや専用コントローラの操作によって照明器具を無線でコントロールできるため、電気工事の手間もかかりません」
「かつての住宅は一室一灯という考え方が主流でしたが、最近では一室多灯が当たり前になり、さらに明るさや光の色も制御できるようになりました。そこから一歩進んで、一台一台を個別に制御できる照明コントロールシステム等を用いることで、ひとつの部屋でもシチュエーションに応じた光の制御ができます。例えば夜のリビングを、勉強や仕事をする人とソファで寛ぎたい人が共有していた場合、前者の手元には覚醒や集中力を促す青白い光を当て、ソファの周囲は色温度が低い暖色系の光を当てる、といったことも可能です。サーカディアンリズムをベースとしながら、シチュエーションに応じて光を切り替えて、気分をスイッチさせることができるのです」。
近年の研究では、サーカディアンリズムを整えることで、肥満や認知症を防止できるとの研究結果もあり、さらに注目を集めています。サーカディアンリズムと光を考慮した照明計画を取り入れ、心と身体に配慮した住まいの設計に役立てていきたいですね。
「ジューテックホーム まちかどモデルハウス都筑の家」での光の運用例
体感コーナーのリビングにおいて、朝・昼・夕・夜間と、時間にあわせた心地よい光の提案を行っている。
※遠藤照明 次世代調光調色「Synca」・無線調光システム「Smart LEDZ」使用。
取材・文=梶原博子
監修=リビングデザインセンターOZONE