住宅購入における、最低限の地震リスク対策とは
投資をする人であれば「ひとつのかごに卵を盛るな」という格言を聞いたことがあるかもしれません。これは「リスクを分散しておかなければ、有事の際に財産の大半を失ってしまうことになりますよ」ということを端的に表しています。
住宅というのは大半の方がローンを組んで購入されています。年収の3倍から5倍程度のローンを組むことは、投資でいうところのレバレッジをかけた信用取引ということになり、一般的には上級者向けの高リスク投資と同様の行為です。しかも投資のように銘柄を分散させるわけではなく、「自宅」に一点投資していることになります。それでも購入しなかった場合には家賃がかかるので「どうせ支払わなければならないから・・・」ということで購入に踏み切っているのが大半の方の心情かと思います。
確かにローンの支払いが終われば、自宅は完全に自分のものになります。逆に賃貸住宅においては居住期間に大災害が起きても命が助かりさえすれば、失うのは家具や電化製品等で済む、という側面もあります。高いレバレッジをかけて一点投資した「住宅」が大地震によって住めなくなる、すなわち価値がゼロになってしまうことをきちんと理解している人は、一般人はもちろん、住宅実務者でも少ないように思います。
東南海エリアに関しては30年以内に70〜80%の確率で、関東に関しても同様の確率で大地震が来ると予測されています(注1)。この確率は、今新築する30代の方がかなりの確率で被災することを示しています。それでも資産価値を失わないためには「耐震等級3」が必須となります。レバレッジの高い住宅購入という行為に踏み切る場合、これが最低限のリスク対策です。(同程度のリスク対策としては、自動車に乗る人が無制限の対人保障保険に加入することが挙げられます。)
注1.地震調査研究推進本部/地震調査委員会『南海トラフの地震活動の長期評価(第二版)について』2013年5月24日
近年多発する、台風による被害
地震に比べて強烈な事象ではありませんが、それに準じて対策しておかなければならないのが「台風」です。私の住む兵庫県では2018年の台風にて風速50mを記録しました。アンテナやアルミの塀が曲がり、瓦が飛び、ガラスも割れました。雨漏りした物件も多数あります。風速50mは、時速に換算すると180kmにもなります。この速度で高速道路を走っている車のフロントガラスが割れたらどうなるか、想像してみてください。少なくとも大窓にシャッターは設置しておくのが望ましいです。
未体験レベルの災害に、一人一人がどう備えるか
地震でも台風でも、安全な住宅であれば避難所に行く必要もありません。ほんの数日でも避難所で過ごすのは大変な苦痛を伴います。有事の際の住宅の安全性を、今一度見直すことが必要です。
私達は「これまでの人生」をもとに準備、対策を行いがちです。しかし、地震・台風ともに、未体験レベルのものが来ることが確実な時代が来ています。この点をきちんと理解しなければ、相応の準備を始めることは難しい。そして、一人一人が準備していなければ、被災者の数が助ける側の数より圧倒的に多くなってきている現実も同時に知っておく必要があります。
テキスト=松尾 和也(株式会社松尾設計室 代表取締役)
監修=リビングデザインセンターOZONE