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制度・マーケット情報 いよいよ消費税10%、新設住宅着工は本格縮小期へ

INDEX 2019.10.18

消費税がついに10%となりました。日々の生活としては、食品の軽減税率があり、更にキャッシュレスポイント還元という後押し策があるため、今回の消費増税は、言われているように、8%に増税した時に比べると、景気に与える影響は少ないと思われます。

支援制度の手厚い住宅に限らず、自動車、家電製品に至るまでそういう傾向となっているでしょう。何となく、期間限定措置のある間は、購買意欲の冷え込みは限定的になりそうな気もします。
ただ駆け込みで購入が多かった商品は当然反動減があります。ですから駆け込みがあった高額の住宅、家電というものは一定の反動減の需要減退はあるはずです。政府からは反動減対策として、住宅取得支援策を多く設けてもらっていますが、その効果は、駆け込みを抑え、その後の反動減を抑えるということに限定されます。
これから始まる消費税10%の時代、消費増税を挟んでの住宅業界の着工動向と今後の動向を考えてみます。

1増税影響は限定的、支援制度の効果は?

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住宅の着工状況を見ると、持家に関しては97年、2014年と今回、過去3回の増税時の中で、「駆け込み」という形での前年同月比の山は確実に小さいものとなっています。これは大手ハウスメーカーの受注状況が、前回時の半分程度であったことからも想定通りの動きと言えます。駆け込みが小さかった分、施工での大きな混乱もなかったと見られ、8月には早々に持家着工がマイナスに沈みました。

4~8月までの持家着工の前年同期比は、6.0%増。このままのペースで行けば、何とか30万戸を超えるのですが、既にマイナストレンドに入ったところからすると、やはり厳しいと見られます。昨年持家がプラス幅を大きくしてきたのは10月以降ですので、激しい反動減という動きにはならないはずですが、これからの下半期でプラスを維持するのは難しいでしょう。持家着工の30万戸回復を期待はしましたが、既に持家の30万戸時代は完全に終わったと言え、実際には前年を多少上回るかどうかというところに落ち着くと見られます。

支援制度も確かにありますが、駆け込み抑制と反動減対策の効果はあっても、需要を大きく喚起するまでには至りません。ただ支援制度に関しては、ローコスト住宅の方がプラスの影響は大きいかと思われます。価格が低いため、そもそも増税分は少ないですし、購入者層はすまい給付金の支給額が大きくなる層です。また建物価格に対する次世代住宅ポイントの還元率も高いといった面もあります。大手ハウスメーカーに比べて、ローコスト大手のタマホーム等の受注は良いですが、こういった要因に加え、老後2000万円不足問題が浮上したことで、顧客の住宅資金をより小さくしている面もあるかと思われます。ローコスト系、ビルダーの受注では、しばらく支援制度は効いてくるかもしれません。

2賃貸住宅のマイナス幅は拡大、逆風は何処まで吹くか

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持家着工の動向は駆け込みも反動減も少ないという、想定内の動きをしていると言えますが、前回と比べて今回の増税時は、賃貸住宅の着工減が続いていることが、市況感全体を悪くしている感じはあります。

賃貸着工に関しては2016年度にピークを打ってから、直近の約2年間に亘ってマイナス基調で推移していて、その谷は更に深くなって来ています。金融機関の融資は依然として厳しく、実行にも時間が掛かっています。進んでいる商談も期間が掛かり過ぎて熱が冷め、キャンセルになるケースも増えているようです。まだしばらくは貸家への逆風は止みそうにはありません。
この貸家着工が足を引っ張っていることで、着工全体では10月の消費増税6ヶ月前の月に当る今年4月の段階から前年を割り始めています。新設住宅総着工は、4~8月までの累計で前年対比5.1%減。仮に今年度着工が5%減で推移した場合、2019年度の着工は90.5万戸まで落ち込みます。ただこれから持家がマイナスに入って、貸家も回復の兆しは見えないことから、今後も全体着工もマイナス幅を広げていく方向性となるでしょう。とすれば、2019年度で既に90万戸を割るということが現実味を帯びてきています。

3支援制度終了、五輪後の景気動向、出生数減少、ついに本格縮小期へ突入

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建売分譲に関してはまだプラス圏を維持しています。ただあくまで着工ということで、売れているかどうかはまた別問題になってきます。首都圏での販売価格は下落してきているということで、販売が鈍っていることが予想されます。今後の在庫調整ということが起こってくれば着工も減っていくと見られます。
そして半年もすれば住宅着工を何とか支えていると言える支援制度も終了を迎えます。懸念すべきは様々な支援が終わった時で、景気自体にも影響を与える可能性があり、住宅は支援のあるなしが、購買意欲を直撃する恐れがあります。住宅関連の支援措置は最初に贈与税非課税枠3,000万円拡充と、次世代住宅ポイントが、来年3月には終わります。そして6月には日々の生活に関わるキャッシュレスポイント還元が終わります。その頃には住宅ローン減税拡充の適用を受けるにしてもギリギリのタイミングでしょう。ローン減税拡充の恩恵を受けるには来年12月末までの入居が求められます。
更に、9月に入り東京五輪が終われば、一旦五輪ムードに盛り上がった景気が停滞すると見られ、新築市場の冷え込みは必至だと考えられます。
住宅への後押し策が再び投入される可能性はありますが、何もなければ住宅着工は確実に失速し、本格的な縮小時代へ突入していきます。ストックへの市場シフトへの加速が進むかもしれません。

増税後に住宅市場が縮小することは十分に予想されていたことですが、消費増税は一つのキッカケであって、市場縮小の要因ということではありません。先日、出生数が急減して、2019年には90万人割れするという予測が発表されました。今年1~7月の出生数は、前年同期比5.9%減、30年ぶりの減少ペースといいます。100万人を割ったのが、3年前の2016年ですから、すごいスピードで減っているわけです。出生が減る最大要因は、その親の人口が減っているためで、団塊ジュニア世代が40代後半となり、出産期女性の数が減っています。住宅着工が減る背景は、このような若年人口の減少であるわけです。そして出生数減少は更に先の日本の未来に影を落とします。

今回の消費増税で、支援が手厚くなるのは子育てです。出産や子育てをしやすい環境が求められている今、幼児教育無償化は少子化対策にはプラスと働く可能性もあり、そこには期待したいものです。住宅着工も1年前倒しで90万戸割れが起こるかもしれず、いよいよ増税後の新しい時代が始まります。更なる激しい変化が起こりうる住宅業界で、一歩先を読んでの経営戦略が求められます。

(テキスト/株式会社住宅産業研究所 関 博計さん)

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