キッチンは果たして「設備」なのか?

現在の建築業界の流通では、キッチンは設備ルートで流れてきます。しかし使い手にはその意識があるでしょうか?そこに日本のキッチンの危うさが潜んでいると思っています。一方、ヨーロッパのキッチンはほとんどが家具からの発想で作られています。自由で魅力的なキッチンはそういった発想の違いから生まれているのでしょう。
設備から発想をスタートさせるとどうしても『商品』としてのキッチンを考えてしまい、価格や機能(お掃除ラクラク&収納たっぷり)を優先しがちです。そうすると画一的な商品が出来上がり、メーカー間の決定的な差が生じにくいのも現実です。しかし日本の住宅市場では、90%以上をメーカーのシステムキッチン(設備としてのキッチン)が占めており、使い手はほとんどキッチン単体のみの宣伝しか見ることがないため、日本市場では設備としてのキッチンからなかなか脱却できないままなのです。キッチンは空間に入り、人が使ってはじめて成立するものなので、当然のようにインテリアコーディネーションや人とのコミュニケーションが最も重要なポイントなのです。空間の一部としてのキッチンは家族ごと、空間ごとに違うはずです。
キッチンのイメージを決定する「部材」と「レイアウト」
キッチンのイメージを決定する部材としては、ワークトップと面材が大きなウェイトを占めます。ワークトップに使われる素材はステンレス、人工大理石だけでなく、クォーツストーン、セラミック、天然石が挙げられます。最近では木や樹脂モルタルも注目されています。筆者はお客様の了承が得られれば何を使ってもいいと思っています。もちろんそれぞれの特徴を熟知して、お客様に告知する必要があります。面材も同様です。天然木、塗りつぶし、化粧板、金属、人工大理石、樹脂モルタル・・・様々な可能性を考えましょう。
次に使い勝手を左右する要素として、レイアウトを考えます。昨今、日本のメーカーキッチンはほとんどがパッケージ商品であり、サイズが決まれば全ての位置や寸法が決まってしまっています。それでは画一的なレイアウト、通り一辺倒の使い勝手になり、人がキッチンに合わせなければならないということになります。筆者は、キッチンの構成要素を四つに分けています。「火」「水」「作業(包丁)」「収納」です。この4要素の中で収納以外の3つはすべてワークトップの上で行うコトであり、ワークトップと収納はほとんど無関係ですので切り離して考えます。「火」「水」「作業(包丁)」のなかで、手元から目線を外していい行為は「水」だけです。そこで、まず使う人が一番見たい風景を意識してシンクの位置を決めます。次は使い手家族の食生活を考慮してコンロの位置を決めます。例えば焼き魚や揚げ物が多いご家庭に対面型のコンロは絶対に避けるべきです。そしてその間にまな板を置く場所を決めます。それを関連づけるだけでキッチンのレイアウトは完成です。意外と簡単ですよね。最後に収納は行為によってその位置を決めます。レイアウトに関することを書き出すと長くなるので、今回は触りだけですがご参考下さい。


キッチン家電と、導入時のポイント

さて、キッチンでもう一つ大事なことはキッチン家電です。最近では惣菜やプレカット食材などが流通し、家電側も自動調理機能が多くなりました。つまり調理行為は以前とは作法が変わるので、新たなキッチン家電が必要になってきます。また、ライフスタイルやインテリアとの親和性を考慮すると、輸入ビルトインキッチン家電も気になってきます。10年前に比べて輸入キッチン家電の種類はかなり増えました。それぞれの家庭事情を考慮して選択したいものです。その時にはランニングコスト、使用頻度、見た目、そしてインテリアとしての完成度(充実度・満足度)も含めて検討することを忘れないでください。イニシャルコストだけで判断すると必ず後悔することになります。
満足いくキッチンをつくるのは意外に気力と体力が必要だと思います。時には専門家にも相談しながら、お客様に合ったキッチンづくりに取り組んでみて下さい。
テキスト=和田 浩一(株式会社STUDIO KAZ)
監修=リビングデザインセンターOZONE