1CLTの活用事例が建設業界で先行
CLTが登場したのは1990年代中頃です。当初オーストリアを中心に発展し、その後、イギリスやスイスなどヨーロッパ各国、2000年代に入るとカナダやアメリカ、オーストラリアと、CLTの活用は世界に急拡大していきました。木材特有の断熱性と壁式構造の特性を活かし、戸建住宅の他、中層建築物の共同住宅、高齢者福祉施設、ホテルの客室などに利用されるケースが多く、最近ではCLTを主要な構造材とする10階建て規模の高層建築プロジェクトも散見され始めました。
一方、日本におけるCLTの建築技術は発展途上にあります。国内で2013年12月に製造規格となるJASが制定され、2016年4月にCLT関連の建築基準法告示が公布・施行されました。これらをきっかけに、CLTの一般利用がスタートしたということで、まだ3年ほどの実績に留まっており、海外に後れを取っているのが実情です。しかしながら、住宅業界に先んじて建設業界ではCLTの活用が急速に進んでいます。2019年2月には仙台市にてCLTを国内で初めて床材と耐震壁に使用した、竹中工務店施工の10階建て高層賃貸マンションが竣工した他、この11月末に竣工予定の新国立競技場でもCLTが用いられています。
CLTの建材としての有用性はこれまで説明してきた通りですが、CLT利用促進が国内林業の活性化につながることも期待されています。日本は国土の3分の2を森林が占め、森林資源が豊富です。一方、安価な輸入木材の流入や木造住宅の着工減などから、国内の木材生産が低迷し、林業従事者も大きく減少しています。手入れが行き届いておらず、荒廃した森林では土砂災害発生のリスクも高まります。そのため、政府はCLTを普及させ、国産木材の需要拡大と林業活性化を図っています。
2「2×4」×「CLT」のモデルハウスがグッドデザイン賞受賞~三菱地所ホーム
三菱地所ホームはCLTを用いたモデルハウスで、2019年のグッドデザイン賞を獲得しました。受賞対象となったのは新宿ホームギャラリーと千里ホームギャラリーの2棟です。
これらモデルハウスの特徴は「ハイプロテクトウォール構法」と「3D TIMBER FRAME」によって実現した大空間と8mの連続両面大開口、またCLTを2階床板に使用することで2方向はね出しによって形成されている伸びやかな軒下空間です。「ハイプロテクトウォール」は壁倍率約6倍を誇る構造壁で、標準採用しています。また、「3D TIMBER FRAME」は水平荷重を壁柱が、鉛直荷重をラーメン架構全体が受け止める構造により、外壁のコーナー部に最大8m超の連続両面大開口を設けることができます。
両モデルは軒下空間を大きくとったため、夏は直射日光を避け、日照時間の短い冬には柔らかな光を室内に取り込むことができ、年中快適に過ごすことができます。デザイン面に関しては、水平方向に伸びるCLTスラブとフラットな庇によって形成されるダブルラインと、1階から庇の上部まで垂直に伸びるキューブ状の外壁部分を設けたことで、より際立った水平線と垂直線、平行線が演出する造形が目を引きます。
また、2019年5月にオープンした新宿ホームギャラリーの設計に関しては、インハウスの設計集団である「ORDER GRAN設計室」が担当しました。これは2019年度に新設されたばかりの組織で、実績とセンスに優れたメンバーを選抜してチームが編成され、デザインにこだわりを持つ富裕層をターゲットに展開しています。
3オリジナルCLT工法による集合住宅商品を開発「フォルターブ」~大東建託
コンクリートの代替建材と期待されるCLTですが、ハウスメーカーではCLTを採用することでのコストの高まりなどを背景に、CLTを用いた住宅商品化が進んでいません。その中で、いち早く商品開発に漕ぎ着けたのが大東建託です。同社は10月1日、独自開発したCLT工法による木造4階建て賃貸住宅「Forterb(フォルターブ)」を発売しました。この商品名は、「強い」を意味する『Forte』と、「木」を意味する『Arbre』を組み合わせた造語です。
基本のフロアプランは、シングル向けの1K・1DKで、それぞれ専有面積が約27m²、約34m²に設定し、ワンフロアに3戸、合計12戸を配置します。住居部分はコンパクトではありますが、CLTの木質感を活かした内装としています。さらにCLTを用いた界壁は厚さ150mmで、隣室との遮音を徹底し、界床はLH-55を実現しました。また、共用部エリアに関しては、CLTを仕上げ材とする壁面を設けています。
この他、大東建託ではCLTを用いた新施設を、江東区東雲に建設しています。「未来の暮らし」をテーマに情報発信する新施設「ROOFLAG(ルーフラッグ)賃貸住宅未来展示場(以下、ルーフラッグ)」という名称で、2020年2月に完成予定です。ルーフラッグの特徴は、CLTを組み合わせた三角の大屋根が形成するファサードで、大きな旗に見立てています。敷地内には、ショールーム機能を備えた展示棟や賃貸住宅商品のモデル棟、最新の技術を伝える研究ゾーンを設けています。
(テキスト/株式会社住宅産業研究所 斎藤 拓郎さん)