住宅&住宅設備トレンドウォッチ

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ビルダー販促事例 住宅商品のマルチブランド戦略

INDEX 2020.1.24

住宅会社が受注棟数を増やすためには様々な戦略が考えられますが、単純な方法を2つ挙げるとすれば、横に広げるか縦に広げるかです。
横に広げるのは、住宅を販売するエリアを拡大すること。これまで住宅を販売してこなかったエリアに新たに営業拠点を設けて人員を投下すれば、その店舗で販売した棟数を全体に上乗せできます。かつてのタマホームや、現在ではアイ工務店がその代表と言えますが、広域展開で未進出のエリアに次々と店舗を増やすことで急成長を遂げています。
縦に広げるのは、同じエリア内でもこれまでとは異なる客層を自社の客層として取り込み、シェアの拡大を図ることです。これは即ち商品バリエーションを拡充することと言い換えられます。複数の商品ブランドで展開するという、この「マルチブランド戦略」は、ビルダーの成長戦略の一つと言えます。

1複数ブランドでシェアの拡大を図る

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商品バリエーションの拡充におけるここ数年のビルダーのトレンドが“マルチブランド戦略”です。これまでの商品展開の考え方の多くは、縦に広げることでした。自社の主力であるベーシックな自由設計の商品があるとします。この商品を中心に、上はより年収が高く客単価も高く見込める層をターゲットにして、性能や仕様のグレードを高めてデザインにもこだわる上位商品を設け、一方で購買力の弱い若年層をターゲットとして、設計の手間が少なく仕様部材を統一することでコストダウンできる規格住宅を設けるという考え方です。

これに対してマルチブランド戦略は、価格帯別に上下に商品の幅を広げるというよりも、異なるコンセプトの商品ブランドを複数展開するという考え方です。
現在の住宅購入層の中心である30代のミレニアル世代は、モノ消費よりコト消費の世代と言われています。住宅もモノで選ぶのであれば、性能や仕様と価格のバランスを比較検討することとなるため、数字で比較されやすくなります。

一方、コトで選ぶ場合は、趣味嗜好によって需要は多様化します。特定のコンセプトが好きな人にその好みに合った商品情報を届けてファン化できれば、他と比較されることが少なくなり成約率は高まります。
そこで、例えば「家でカフェを楽しめる」、「家族の健康に配慮した自然素材の家」、「庭でアウトドアを楽しむライフスタイル」、「DIYで住みながら完成させる家」のように、コンセプト別に商品ブランドを展開するのがマルチブランド戦略です。多様化する住宅需要への対応力を高め、幅広い客層からの受注が見込めます。同じ一つの商品ブランドの中で様々なテイストの商品バリエーションを展開するのではなく、それぞれを独立したブランドとすることで、それぞれのブランドに合った広告宣伝や集客、商談の進め方ができ、成約率を高めることができるはずです。

2大手ビルダーのマルチブランド事例…石友ホーム、シアーズホーム

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県内トップ、エリアトップクラスの大手ビルダーで、マルチブランド戦略で成功していると言えるのが、富山県の石友ホームと熊本県のシアーズホームです。いずれも価格帯別に縦にブランドを分けている事例ではありますが、それぞれのブランドが独立し、それぞれ異なる営業戦略で動いています。

石友ホームは主に北陸3県で、石友ホーム、ウッドライフホーム、インカムハウスの3ブランドを展開し、石友本体からウッドライフとインカムを分社化しています。価格帯は上から石友、ウッドライフ、インカムの順です。石友は総合展示場をメインの集客拠点として、基本的な住宅性能と、それに組み合わせるZEHの訴求といったハウスメーカーに近い売り方で、地元では準ハウスメーカー的なブランドを確立しています。一方、ウッドライフホームはロードサイド型の単独展示場で開催する住宅相談会にWEB予約で集客しています。住宅購入を考え始めた若年層にターゲットを絞った集客戦略と言えます。

シアーズホームも、主力ブランドのシアーズホームは総合展示場、別会社でローコスト自由設計のジャストホームは移動式モデルと完成見学会というように集客のルートを分けています。これに加えてヒノキヤ住宅のFCにも加盟し、シアーズホームと同じ総合展示場の集客でも、コストパフォーマンスを重視する客層を掴んでいます。ローコストでもジャストホームとは別に新ブランドのブエラハウスの販売を開始しました。ジャストホームは最近では平屋プランの訴求を強化し、ブレラハウスではDIYをキーワードとして、近い価格帯でもブランドの見せ方を変えています。

3住宅商品のマルチブランドと事業多角化をリンクさせる…ジョンソンホームズ

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北海道のジョンソンホームズは、リフォーム、インテリア、エクステリアなど住宅関連の各種事業を展開し、住宅事業だけで見ても、コンセプトや価格帯で分けて5ブランドを展開しています。ヨーロッパ風の輸入2×4住宅の「インターデコハウス」、自然素材住宅の「ナチュリエ」、家具・インテリアを合わせて提案する「inZoneデザインラボ」、ガレージハウスの「アメカジ工務店」ローコスト規格住宅の「COZY」の5ブランドです。

「ナチュリエ」は、自社で運営するインテリア雑貨店とカフェも同じブランド名にして、同じ自然素材のコンセプトで展開しています。「ナチュリエ」の契約客は、キッチン照明や棚板は雑貨店で販売している商品から選ぶことができます。
「inZoneデザインラボ」は、自社で運営している家具・インテリアショップのアクタスから派生した住宅ブランドです。同店舗で扱う家具のテイストを好む客層をターゲットにしていて、家具と調和しやすいシンプルモダンのデザインの住宅を手掛けます。元々アクタスの家具を気に入っていて、家を建てるなら同社で建てたいと検討していた客層を掴んでいます。

ブランドごとに別の営業組織を設けるということは、社内のポストが増えるということにもなります。育ってきた若手・中堅社員が就けるポストが増えることは、モチベーションの向上になりますし、新入社員が目指すロールモデルとしても有効です。各ブランドの事業部を独立採算制としておけば、将来的に持株会社制・分社化にも移行しやすくなります。成長戦略を考えているビルダーにとって、人員を増やし、育成しながら全体の棟数を増やすマルチブランド戦略は、有効な方法の一つと言えるでしょう。

(テキスト/株式会社住宅産業研究所 布施 哲朗さん)

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