健康と快適性に欠かせない温熱環境のデザイン
家の設計を考える時には、間取りやインテリアには関心がいくものの、温度・湿度・通風といった室内の温熱環境は見過ごされがちです。しかし、大きな窓や吹き抜けのあるリビングをつくっても、そこがとても暑かったり寒かったりしては、快適な住まいとはほど遠いものになってしまいます。現代の住宅設計では、目には見えない温熱環境のデザインが必須となっています。
適切な温熱環境をつくるための基本条件
1.断熱・気密
地域に応じて床、壁、天井、サッシの断熱・気密性能を高めることが必要です。断熱・気密性能が不足していれば、どんなに暖房や冷房をしても、快適な温熱環境は得られません。
断熱材は同じ断熱性能を持つものでも、素材や形状の種類が多く、気密性の取りやすさ、遮音性、防火性、解体時の分別し易さなど各々特徴があるので、目的に応じて断熱材を選択することが大切です。
2.高効率暖房・給湯設備
近年の気象条件からは、いくら建物の断熱・気密性能を高めても、暖房も冷房もなしということはほぼ考えられません。住宅のエネルギー消費の約半分は暖房と給湯によるものですから、高効率の暖房・給湯設備を使ってランニングコストを抑えることは、一年を通して快適な温熱環境を維持するためにとても有効な選択です。
3.周辺環境を取り入れるデザイン
高い断熱性能と高効率の暖房・冷房機器を備えることで、住宅の温熱環境を適切に整えることができますが、住宅内部に閉じた温熱環境をつくるだけでは、自然の豊かさを遠ざけ、人のための住環境はつくれません。建物の配置やプランニング、窓の構成の工夫で、太陽の日射熱を取得・制御したり、採光・通風を得るパッシブデザインの考え方は、省エネルギーになること以上に、周辺の自然環境や地域との親和性を図ることになり、その土地にふさわしい温熱環境をつくる基礎となります。
空間構成でつくる温熱環境
地域や家族の住まい方に応じて、温熱環境と住空間のつくり方は、それぞれ個別な解答となります。
ここでは空間構成の仕方による、自然条件をいかす温熱環境の事例を4つ紹介します。いずれの場合も高い断熱性と暖房冷房の設備が備わっていることが前提となります。
① K邸:部屋の大きさを変化させ、季節や気分に応じた温熱環境をつくる家
家にいることの少ない、単身者のための家です。RC住宅に内断熱を施し、室内の熱容量を小さくしているため、暖房・冷房設備により、素早く温熱環境を整えることができます。引き込み式可動建具による部屋の6分割が可能で、中間期は大きなワンルームで窓を開けて過ごし、夏や冬には小分割で気積を減らして、必要な部屋の温熱環境を整えます。中庭は1階を開放しているため、風が空に抜ける通風を確保しています。
② S邸:太陽の暖かさや風の涼しさ、敷地にある自然環境をいかすパッシブデザインの家
南からの日射や風を、屋根や袖壁で制御しながら、採光や蓄熱、通風を得るRC外断熱の住宅です。
雨のかかる屋根・外壁は耐候性のあるガルバリウム鋼板ですが、軒下で守られるバルコニーの天井・壁は、木の質感を活かした杉板張とし、その杉板が室内の天井・壁にも連続することで、内外に木の温もりのある住空間をつくり出しています。収蔵庫のある地下室は、地中熱により安定した室温を保つので、湿度調整のみをデシカント式除湿機で行っています。
③ I邸:吹き抜けのある地下室で、温熱環境を整えた明るい家
地下室と1階を吹き抜けでつなぐことで、地下の安定した温熱環境に、1階からの採光と通風を得て、地上階のような明るい住空間としています。容積緩和を受けて設けられた地下部分には、壁一面に書架を設置した図書室コーナーがあり、落ち着いた第2のリビングとなっています。地中の温度はその場所の年間平均気温程度となり、冬は暖かく夏は涼しいので、通風を上手く計画することで、地下室でもじめじめしないとても快適な温熱環境が得られます。
④ H邸:南北の採光・通風を得る、北側バルコニーの家
南からの直達日射と北側からの反射光を取り入れ、十分な採光と通風を得ています。北側に設けたバルコニーは南の日射を屋根越しに受け、その反射光はバルコニーの壁面で光と熱を奪われるため、直達日射に比べて穏やかな環境を作り出します。
北側バルコニーは明るく開放的で、インテリアがバルコニーまで連続する、広がりのある空間となっています。
文=磯部邦夫(アーキショップ一級建築士事務所)
監修=リビングデザインセンターOZONE