ハウスライフプラン
「可変性のある住まい」といっても、建物の可変性には当然限界があります。よってまずは、可能な限りいえの未来をイメージすることが大切です。そしていえづくりの際に、ライフプランやマネーライフプランを考えている方は多いですが、“いえのライフプラン(弊社ではハウスライフプランと呼んでいます)”をまとめている方は少ないのではないでしょうか。ハウスライフプランとはライププランやマネーライフプラン、施主ヒアリングから、いえの一生のつかい方を考えるものです。そのいえに一生住むのか、子育て時期には引越をして賃貸に出すのか、老後は売却するのかなどの条件により、つくり方やお金の掛け方等が、かなり変わってくるのです。
今回は事例の一つとして、“二つの庭と三つのリビング”を紹介したいと思います。
設計当時、施主の家族構成は30代夫婦、幼稚園の子ども1人でした。ご要望は「一生住む予定。将来的には子どもは二人欲しく、子ども部屋はしっかりしたものでなくて良い。妻はヨガ教室を主宰しており、できる限り大きな無柱空間が欲しい。夫は大きな音で映画鑑賞をしたい。建築費のイニシャルコストを極力抑えたい。」とのことでした。この条件から作成したハウスライフプランは以下のようになります。
01.子どもが小さな竣工時から10年程度は間仕切りや建具などを極力つくらず、各階に大きなワンルーム空間をつくり、家族で一緒に過ごす。
02.10年後くらいの子どもが大きくなるまでに個室資金を貯め、必要になったら撤去が簡単な子ども部屋をつくる。
03.子どもが独立した場合は個室を解体して、趣味の部屋やくつろげるような空間とする。
このように流動的な要素の多い子ども部屋は、極力小さく、撤去可能につくることが多いです。今回は初期費用を下げるために、竣工時には間仕切りや建具を極力省くことにしました。以上のようなプランにした背景には、施主が子どもの頃に自分の個室のない住宅で育ったことも大きく影響しています。
スケルトンインフィルの設計
ハウスライフプランがある程度固まりましたら、それに合わせて、各時期(竣工・子育て期・老後等)における想定プランを作成します。スケルトンの設計時に重要なのは、将来想定プランの変更部分に、耐力壁を配置しないようにしておくことです。また、老後1Fで生活が完結するプランの場合は、必要な設備系の先行配管をしておくと良いでしょう。スケルトンの次はインフィルの設計となります。この段階でも固定の壁はあまりつくらず、建具や家具などでプライバシーを確保して、将来的に可変性の高い住宅をつくるようにしています。
可変式空間の設計
まず25畳前後の大きな空間を確保します。そこに可動式の家具や間仕切りを設置し、可変性のある空間をつくるようにしています。人が多く集まるホームパーティなどでは、大きな空間としてつかえます。宿泊客がある時には、仮設的に客室にできますし、子供が大きくなったら子供部屋としてもつかえます。このようにイベントや要望、家族構成に沿って、間取りが変化することで空間を有効利用できますし、将来的な生活の変化にも対応しやすい建物となります。
特にマンションなどの限られた空間の中では、固定間仕切りで個室をつくると多くの面積がとられてしまうため、子供部屋などは可動式にして、必要な時期にだけ設置する計画を提案することが多いです。ただし可変式の空間は一般的に遮音性能が低くなる為、その点は施主の了解のもとに設置することをお勧めします。
文=久保和樹(H2DO一級建築士事務所)
監修=リビングデザインセンターOZONE