1集客拠点の変化

住宅会社の集客拠点はどのように変化していくでしょうか。総合展示場と単独展示場とを比較してみます。総合展示場は、運営会社が仕掛けるイベント等によって常に一定数の来場が見込め集客拠点でした。これに対し単独展示場は、他社のモデルハウスと比較されず自社の建物だけを見せられるというメリットがある一方で、広告宣伝等の集客コストがかかるというデメリットがありました。しかしながら、事前にWEB等の情報を見て候補会社を絞り、予約をして来場することが常態化しつつあるとすれば、そこが総合展示場であっても単独展示場であっても条件はそれほど変わらないことになります。
コロナ以降の家づくりの進め方には、「複数の会社のモデルハウスを同時に見比べることができる《総合展示場》」よりも「(WEBで候補として絞り込んだ)1社の複数のモデルハウスを見られる《単独展示場》」のほうが需要に合致しているかもしれません。
総合展示場の場合は、自社を目当てに訪れてくれた見込み客が他社のモデルハウスに目移りする可能性もあります。
一方、自社を候補会社の一つとして選んでくれた住宅購入検討者に対し、単独展示場で複数のタイプのモデルハウスを一度に見せることができれば、好みに合うものが見つかりやすくなり、自社を最終候補として選んでもらえる可能性が高まるはずです。《複数のモデルハウスが建つ1社単独展示場》は住宅会社の今後の集客拠点のトレンドになりそうです。以下に紹介する3社は総合展示場に出展をしながら、単独展示場を強化するというハイブリッド型の出店をしている事例です。
2ポラスグループ「体感すまいパーク」

埼玉県トップビルダーのポラスグループでは、今年1月、注文住宅4ブランドのモデルハウスを揃えた単独展示場「体感すまいパーク東浦和」を開設しました。2018年オープンの「体感すまいパーク船橋」、「体感すまいパーク柏」に次ぐ3番目のポラスグループの単独住宅展示場で、地元埼玉県内では初出店となりました。
出展モデルは「PO HAUS」、「北辰工務店」、「HaScasa」、「GRANSSET」の4ブランド。「GRANSSET」は鉄骨造賃貸併用住宅モデルハウスの初出展となります。オープン時は2回目の緊急事態宣言の期間であったにもかかわらず、1~2月の2ヶ月間で550組を集客しました。同社の各営業エリアの旗艦店として、今後も同タイプの展示場を増やしていくことが想定されます。
3アイ工務店「アイパーク」

アイ工務店は創業以来二桁増収を続け、年間受注棟数は4,000棟を突破し、現在最も勢いのあるビルダーと言えます。同社ではこれまで、ハウスメーカーが撤退した総合展示場の空き区画を狙って毎年30拠点前後の新規出店を続け、店舗数の増加に比例して棟数・売上規模を拡大してきました。
最近では総合展示場以外の新たな形態の店舗を増やしています。その一つが複合型単独展示場の「アイパーク」です。19年4月に福岡の大野城に開設した「アイパーク福岡」は、“小さな森”をテーマに、約700坪の敷地に豊富な植栽と3棟のモデルハウスが立ち並び、森の中を散歩するように見学することができる、新しい形の体験型展示場として訴求しています。今年1月には金沢に「アイパーク金沢」、同9月には埼玉に「アイパーク浦和美園」を開設しました。今後も同タイプの拠点を全国の主要エリアに開設していく計画で、現在の約140拠点から3年で200拠点まで増やす計画を立てています。
4ハウスクラフト「ハウスクラフト・ギャラリー」

三重県北部を中心に年間約100棟の注文住宅を手掛けるハウスクラフトは、地元の菰野と鈴鹿には店舗型の「ハウスクラフト・スタジオ」を構え、より市場規模の大きい津では総合展示場に出展しています。
今年7月には津の総合展示場の近くに、1社単独の複合型展示場「ハウスクラフト・ギャラリー」をオープンしました。モデルハウスは自由設計の「アーキレーベル」、セミオーダーの「ラシア」、グランピングをコンセプトとした「グランプ」の3棟。総合展示場で同社に興味を持った来場客を案内して、すぐに各商品を比較検討してもらうことと、WEBきっかけの来場客に対して初回の時点で自社の3商品に候補を絞ってもらうことが狙いです。
これらの事例のような常設の複合型展示場を設ける以外には、土地の仕入れを強化して、同時に見られる分譲型の期間限定モデルを増やすような動きも、コロナ以降は散見されるようになりました。WEBによる広告宣伝・ブランディングの価値が高まっているからこそ、オフラインで会って商談を開始する場である集客拠点の計画には留意する必要があります。
(テキスト/株式会社住宅産業研究所 布施 哲朗さん)