パッシブデザイン
現代では「快適ゾーン」を確保するためのエネルギーをエアコンなどの冷暖房設備に頼っています。これに対して、この「快適ゾーン」を確保する為に、まずは建築的工夫によって太陽エネルギーを始めとする自然の恵みでまかない、それでも足りないところを合理的な冷暖房設備で補充するという考え方をパッシブデザインといいます。
自然を外敵とみなし遮断してしまうのではなく、太陽、風、緑、土などの自然の恵みを受け入れ呼応しながら居心地のよい空間をつくっていく。
私たちの設計事務所では、住まい手が寒さや暑さが取り除かれた穏やかな環境の中、自然とつながる喜びを感じながら、何十年先までも愛情を注げる住まいづくりを提案したいと考えています。
日差しの取り入れ方
パッシブデザインの中でも特に大きなテーマは、太陽のエネルギーをいかに活用するかです。
冬にさんさんと日の入る窓があれば昼間はそこから日差しが差し込み、室内はぽかぽか温かくなります。天気のよい日中は、この空間で生活すればほとんど暖房を使わずに済みます。ところがこれだけでは、太陽が沈んでしまうと途端に外気が冷え、連動して間もなくスッと室内気温も下がってしまいます。そこでさらに、昼間の太陽熱をどこかに蓄えておいて日没後、寒くなったときに消費する「蓄熱」という方法がさまざまに工夫されています。室内の床や壁に、土・コンクリート・レンガ・タイルなどの熱を蓄えやすい材料を使います。すると、室外の日射がガラス窓を通して室内の壁や床に熱がしみ込み、日没後も室内の冷え込みを緩和してくれます。
また、夏の(蒸し)暑さをどう抑制するかも大切です。冬場、大いに日射取得に役立った窓ですが、夏はこの窓からの日射をしっかりと遮らなければなりません。日射遮断の手法としては、窓の上部に庇をつける、ブラインドを設置するなどが考えられます。簡単に設置できるのはブラインドですが、注意したいのが室内で日射を遮るとブラインドの羽自体が熱くなり間接的に室内を温めてしまうことです。必ず窓の外側に設置して屋外で日射を遮ることが大切です。
そして建物の表面温度や地表面を熱くしないこと。たとえば、壁面や屋上を緑化するのもよいでしょう。また、南庭に落葉樹の高木を植えると、夏に葉が生い茂った時期に日射を遮り、冬には葉が落ちて日射を取り込めます。
室内に風の流れを生む
風速1メートルの風が体にあたると体感温度が1℃下がります。風上方向に窓を取ると、自然の力を室内に取り込むことができます。窓が風向きに正対しない場合は、何か風を呼び込む工夫をします。外気が無風状態でも、室内上下間の温度差を利用した重力で換気する方法もあります。
熱い空気が天井まで上昇し、天井の一番高い所に熱溜りができる。そんなときに高窓があれば熱い空気を速やかに排出してくれます。室内が負圧になるため、新しい空気の入り口も必要です。このとき、建物北面の日陰などに窓があると、比較的冷たい空気を室内に取り込めます。ただこうした「パッシブ換気」を計画的に行うには住宅が高い気密性を持っていることが前提です。また、通風設計で大切なのは出口をつくること。せっかく取り込んだ風も反対側に窓がなければ空気が抜けません。風が通る一本道を想定し、まずはきちんと出口を確保して、家全体の空気の流れをデザインしましょう。
テキスト=松田 毅紀(HAN環境・建築設計事務所)
監修=リビングデザインセンターOZONE